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東京家庭裁判所 昭和50年(家)3045号 審判

申立人 久保洋介(仮名) 外一名

相手方 久保隆(仮名)

主文

一  相手方は申立人久保洋介に対し(イ)生活費として昭和五〇年二月一〇日から同五一年三月三一日まで一ヵ月につき金一万五、〇〇〇円宛各月末日限り(但し期限が既に到来した分は一括して)、(ロ)学費として金五万五一二五円を昭和五〇年八月末日限り、何れも同申立人に送付又は交付して支払うべし。

二  相手方は申立人青木左智子に対し(イ)生活費として昭和五〇年二月一〇日から同五一年三月三一日まで一ヵ月につき金一万五、〇〇〇円宛各月末日限り(但し期限が既に到来した分は一括して)、(ロ)学費として金一〇万七、九〇〇円を昭和五〇年八月末日限り何れも同申立人に送付又は交付して支払うべし。

理由

一  (申立)申立人らはそれぞれ相手方に対し扶養料として月額金四万円宛支払うことを求めた。その申立理由は次のとおりである。「申立人洋介は相手方と青木雅子(昭和二八年五月三〇日婚姻、戸籍薄上同年八月二九日協議離婚)の間に同年七月一四日出生した長男であり、申立人左智子は相手方と青木雅子とが(右協議離婚後)同棲中両名間に(昭和三一年一月九日)出生した子である。戸籍上申立人左智子は単に青木雅子の女となつているが、そもそも青木雅子と相手方とは協議離婚したことはない。右は雅子の不知の間に相手方が擅に無断でしたもので無効のものであるから申立人左智子は両名間の嫡出子である。ところで相手方は昭和四八年五月以降、子である申立人両名の生活費を全く支出しない。(青木雅子の生活費も支弁しない)。同一建物の中で相手方は階下で生活し、申立人らは二階で暮らしておりそれぞれ別居である。そして申立人洋介は○○○○大学経済学部に、同左智子は××××大学女子短大に在学中であり、申立人らのこの進学は相手方の認めているところであり、同人は右入学の当初の入学金及び授業料を負担してくれた。申立人らの現在の生活は区立幼稚園に勤務する母雅子からの幾何の金円の仕送りがあるが、到底不足であるから父である相手方に対し学業に必要な費用及び生活費に充てるため扶養料を求める。」

二  戸籍謄本によれば次のとおりである。「相手方は昭和一七年一〇月五日永田くにと婚姻し、同二八年五月三〇日協議離婚した。両名の間には二男及び三男がいる。相手方は右協議離婚した即日青木雅子と婚姻した。両名間には長女清子(昭和二七年四月一三日生)長男洋介(申立人・同二八年七月一四日生)がある。相手方と雅子は同二八年八月二九日協議離婚届出をしたうえ、相手方は同年九月七日永田くにと再度婚姻届出をした。青木雅子は同三一年一月九日左智子を出産した。」そして家裁調査官の調査したところによれば次の事実が認められる。「相手方の戸籍上の妻であるくには、相手方が妻と二人の子を捨てたといつて怨んで居るといい、また雅子は戸籍上協議離婚したとされている昭和二八年八月二九日より後も相手方と同棲し、この内縁関係は昭和四九年一月二四日まで続いた後両名別居となつた。相手方は感情の起伏が大きく、昨年一月別れて後は両名間の疎隔も甚だしく、雅子は左智子(申立人)の親権者として相手方に対し認知の訴(東京地裁昭和五〇年タ第三三号)を提起した。」

三  (一) 相手方と申立人洋介との間に親子(父子)関係があることは右の事実から認められるのに対して、相手方と申立人左智子との間の親子(父子)関係の存否については検討を要する。家裁調査官の調査によれば、「相手方と雅子は、両名が協議離婚したとされる昭和二八年八月二九日より後も同棲し(内縁的)夫婦関係を続け同四九年一月頃に及んだもので、左智子はその間である同三一年一月九日出生した」ことが認められるのであるから、他に特段の事情の認められない限り、左智子は母雅子の内縁の夫であつた相手方の子であると推定され(父性の推定)これを覆するに足りる特段の事情は認められない。そうであるとすれば申立人左智子の相手方に対する前記認知請求訴訟事件の判決を俟たないでも、本件においては、申立人左智子と相手方との(生理的)父子関係が認められる以上申立人両名の扶養の要否とその程度及び相手方の扶養の能力について検討すべきものである。

(二) 本件において先づ気のつくことは申立人洋介は昭和二八年七月一四日生れで既に成年に達して居り、同左智子は同三一年一月九日生れで成年に達するのもさして遠くない。家裁調査官の調査によれば「申立人洋介は○○○○大学経済学部の学生であり、同左智子は××××大学女子短大に在学中であつて同人らが右各大学に入学するについて相手方はこれに承諾を与えていたこと、相手方は左智子が右短大に入学する際同人のために入学金等四〇万九、〇〇〇円位を支払つたこと」が認められる。そこで扶養を求める子が既に成年に達したか又は成年に間近く、しかも健康な場合に、職を得て働けば収入を得られるようなときであつても、大学に在籍し特段の収入がないという理由で父に対し学費及び生活費を扶養料として求めうべきかについては当事者の社会的地位、経済的余力その他諸般の事情をすべて検討し、個々的に決するほかないものと思料されるが、家裁調査官の調査によれば「相手方は区立小学校の教員であり、その収入は月額約一八万円いわゆるボーナスとして年に約七〇万円を得ているほか家庭教師によるものがあると推認され、その生活は法律上の妻くにがあるけれども、事実は別居であつて、単身の生活費を要するだけのものである」と認められ他に特段の事情があるものとは認められないから、相手方には経済上の余裕がないものとは見られないことと、現時の社会状況では概ね子を大学に通わせ、二十歳過ぎ位までその生活の面倒を見ることが一般の風潮であるから、本件扶養申立につき進んで検討することとする。

四  調査の結果(当庁昭和四九年(家)第九一〇六号事件の調査を含む)によれば、「申立人両名は相手方とは二階建ての建物の一方は階下で、他方は二階で別々に生活し、別世帯をなして居り、相手方は申立人らに対し昭和四九年中に若干の生活費を交付していたが、同五〇年一月以降はこれを交付していない。他方申立人らは同四九年秋頃以降母親である雅子から毎月数万円見当の生活費を貰い、申立人洋介はこのほかいわゆるアルバイトによる若干の収入を得て生活を維持して来たこと、申立人らの学費について、申立人洋介の昭和四九年度分の大学授業料と申立人左智子の同年度後期の授業料を母親雅子が支弁し、同年度の左智子の入学金と前期授業料等を相手方が支弁したこと」が認められるところである。右に認められる事実によつては、申立人らが毎月どれ程の生活費を必要とし、如何程不足しているか明らかではないが、現時の生活費として少くとも一人当り月額金三万円は必要であると推認される。そして調査したところによれば同人らの母親である雅子もまた幼稚園教論として手取月額金一七万円位の収入を得ており申立人らの生活を援助することができ、且つ、その援助していることが認められるので、申立人らに対し本件申立の時から、同人らが各大学を卒業する見込みの昭和五一年三月末まで申立人らに対しそれぞれ右金三万円の二分の一に当る金一万五、〇〇〇円宛の生活費を毎月相手方をして支弁、支払わせるのが相当である。更に、前記二(二)の末尾に説示した趣旨から、申立人らの各大学に納付すべき昭和五〇年度分の授業料等の納付金について検討すると、申立人洋介の分は年間金一一万〇二五〇円、同左智子の分は年間金二一万五、八〇〇円を要することが調査の結果認められるので相手方は父として各その二分の一の金額を支弁するのが相当である。(申立人洋介が母親の援助を受けて自動車を運行しているかの如きことも窺えるけれども、前記認定判断を覆えすには足りないものと認められる。)

五  よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 長利正己)

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